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 日本組織細胞化学会理事長  小路 武彦 輝かしい伝統を持つ日本組織細胞化学会の理事長に 2017 年 1 月 1 日付けで再任されました長崎大学大学院医歯薬学総合研究科の小路武彦です。過去 3 年に及ぶ任期期間中の経緯を踏まえ、新たな学会運営に向けて一言ご挨拶申し上げます。

 

 歴史的には、本学会は 1960 年に別々に発足しました日本組織化学会と組織化学会が 1968 年に統一されたもので、形態情報を基盤として特定の分子の局在や発現状態を定性的或いは定量的に解析し、細胞の生理状態や病理状態の背景にある因果関係を物質基盤或いは分子基盤で解明することを目指しています。我々の解析能力は絶えず高次なレベルでの理解へと進化しており、それは遺伝情報の発現方向を逆向きに遡っています。セントラルドグマによれば、遺伝情報の流れは DNA から mRNA へ、そしてタンパクへと変換されていく訳です。そのタンパクが酵素触媒として働き様々な生命現象、そして「かたち」を作り出すことになります。組織細胞化学は、化学反応や化学的特性を利用することにより特定の物質の局在化を行うもので、DNA を検出するフォイルゲン染色や糖を染色する PAS 染色も一例です。画期的な出来事であったのは、Takamatsu-Gomori 染色と言うアルカリホスファターゼ活性の視覚的検出方法の開発であり、酵素活性を視覚化出来たことで酵素組織化学として注目を集めました。本学会学会賞である高松賞の名称の所以ともなっております。その後、タンパク等の特異的抗原の局在を視覚化出来る免疫組織化学が Coons 先生及び中根一穂先生により開発され現在では生命科学研究の必須・不可欠な手段となっています。更に、その合成を確認するための in situ hybridization による mRNA の解析技術が一世を風靡し、DNA上 での遺伝子検出と共に分子組織細胞化学の中心的方法論となりました。最近では、様々な蛍光色素や蛍光蛋白を遺伝子工学的に加工して、特定の分子を場合によっては live image として解析することも可能となっており、遺伝子改変細胞や幹細胞の分化誘導に伴う特定遺伝子の機能証明にもしばしば上記組織化学が必須なものとされております。実は、本学会はこれら方法論の開発・改良及び応用を議論するエクスパート集団で構成されています。形態科学領域の多くの学会では会員数の減少が無視できない潮流となっていますが、本学会では組織細胞化学講習会や学術集会の様々な工夫により会員数も若干の上向き傾向となっております。また機関誌 Acta Histochemica et Cytochemica も高品質な原著論文を中心として評価を伸ばしており、伝統の底力を発揮しているところであります。

 

 世情は短期的成果を求め、基礎生物学者の間でも経済効率のみが正当化される昨今ですが、生命の最小単位である細胞一個一個をオリジナルな目で見つめ、その細胞活動の謎を「画像の背景とその本質を見通す」卓越した視力で解明する組織細胞化学の世界への積極的ご参加と一層のご支援をお願い申し上げる次第です。

 

 

日本組織細胞化学会理事長  小路 武彦